看護分野における空気圧ソフトアクチュエータ・センサの開発
取り組みテーマ分野:<スマート看護>
研究者:西岡靖貴(工学部・機械システム工学科)
地域ひと・モノ・未来情報研究センターには工学部以外の教員もメンバーとして参加しています。看護分野における課題を解決するための、人間看護学部の教員と工学部の教員との学部横断型研究の取組を紹介いたします。
言うまでもありませんが看護の対象は人です。しかも疾患のある方や高齢者など、慎重に扱う必要がある方がほとんどです。また機械化が進んでいるとは言え、看護を主体的に行うのも看護師という人です。看護の分野でのスマート化は人を対象とする場合が多く、考慮しなければならない最大の点は安全性です。まず安全な技術を利用するということから始めました。安全に力を加えることができるものという観点で選択したのが、柔らかな材料で構成され機械的な動きを生み出すソフトアクチュエータでした。非伸縮性の高い高分子フィルム材料で作製した薄膜空気室に、流体を注入することで剛性の高い構造を得ることができます。この空気室の形状や組合せの設計次第で様々な動きを実現することができます。身体に触れたとしても流体を含む柔らかい薄膜であれば大きなダメージを与えることはありません。力などを測定するセンサについても同様です。力が空気室に加わることで内部の流体の圧力が高まり、その圧力を測定することで加わった力を測定することが可能です。力を加える人の部位を損なうことはありません。これらの安全性の高いソフトアクチュエータ・センサを利用するという思想がここで紹介する学部横断型研究の基礎となっています。
最初にアクティブコルセットの例を示します。腰痛を発症している看護職の方は多く、離職の大きな理由のひとつにもなっています。被介助者への負荷を軽減するためには不適切な体勢で介助しなければならず、自らの腰を犠牲にすることが多いと言えるようです。腰痛を軽減するには腹部を圧迫するコルセットを装着し、腹圧を向上させることが有効です。しかし外力で腰を固定してしまうため、力を加えるとき以外は動作の邪魔になります。そこで必要時のみ機能し、必要でない時は空気を抜いて柔らかくできるエア駆動のアクティブコルセットを開発しました。加圧時にはコルセットとして機能し、非加圧時は衣服と同等の柔らかさになります。看護学生によるアンケート調査では介助動作が楽になり動きやすいという結果が得られています。筋電を測定した試験でも軽減率が25%~30%の軽減率を確認しています。
次にマッサージ動作学習支援システムの例を示します。看護におけるハンドマッサージは抗うつや不安軽減などの効果があり、重要視されています。しかしながらそのハンドマッサージ動作を習得するには熟練者の指導が必要で、自己学習が難しいという問題があります。そこで加わった力の情報をリアルタイムで視覚提示し、客観的評価を学習者にフィードバックできる支援システムを開発しました。3Dプリンタで作製した土台に空気室とLEDライトを配置し、それぞれの空気室の空気圧を測定することで加わった力を評価し、結果をLEDの色で示します。この支援システムを使用することで、適切なマッサージ操作を習得することができ、結果として学習前後でマッサージをした組織の血流量が10%向上したという結果が得られています。
ここでご紹介した研究は看護師の仕事の現場や看護教育を行う中から出てきた課題に対するものです。看護される側ではなく看護する側の負担を軽減するアプローチの研究と言えるでしょう。医療分野の研究と言えば、バイオ医薬や先端的な医療機器、様々なフェーズでの基礎研究、臨床試験を経て進める先端的治療の研究などをイメージすると思います。しかし看護現場に直接結びついた、それで困っている医療従事者が多くいるような普遍的な課題の解決も重要です。学部横断型の研究はそのような課題に取り組む機会を与えてくれるのではないでしょうか。
