酒造り事業の創発による地域活性化
取り組みテーマ分野:<スマート観光>
研究者:鵜飼 修(地域共生センター)
滋賀県多賀町大滝地区を拠点とする本プロジェクトは、地域資源を活かした新たな酒造り事業を通じ、里山文化の継承と地域活性化を目指している。活動の原点には、琵琶湖周辺に広がる里山の「やさしい暮らし」への気づきがある。農薬を使わない農産物や地域の食材を大切にし、自然と人間が共生する営みは、現代社会が失いつつある価値である。こうした地域の「やさしさ」を事業に昇華させることを目標に、使われなくなった酒蔵の再生とリキュール製造事業の創発に着手した。
本事業の中核は「リキュール:里和浸酒」である。主原料には無農薬ビーツや各種ハーブを用い、原酒には清酒製造の副産物である酒粕を再利用した粕取焼酎を活用する。この循環型の仕組みは、環境負荷を軽減し、資源のアップサイクルを実現する点でSDGsにも合致している。また、酒粕や農産物を地域内で循環させることで、経済的・環境的両面から「三方よし」の価値を追求している。
さらに、この取り組みは環境省が提唱する「地域循環共生圏」の理念とも深く結びついている。地域循環共生圏とは、地域ごとに存在する多様な資源を有効に活用し、人と自然が共生しながら持続可能な暮らしを営む圏域を形成する考え方である。リキュール:里和浸酒の生産プロセスでは、地域の米や野菜・ハーブを原料に用い、副産物である酒粕は再発酵・蒸留後に再び肥料として農地へ還元される。この一連の循環は、資源の域内完結型利用を促進し、地域の生態系保全や農業の持続可能性を高めるとともに、経済的価値を地域に取り戻すものである。まさに「人と自然の共生」と「資源循環による地域自立」を具現化した事例と言える。
リキュール市場の成長は世界的に続いており、国内でもクラフトリキュールの需要が高まりつつある。しかし、現状では参入事業者が少なく、差別化の余地が大きい。本プロジェクトは「SATOYAMA」という国際的にも通用するブランド概念を活用し、滋賀県の里山文化を背景に独自性のある製品展開を志向している。また、OEMによる試験製造とクラウドファンディングを組み合わせた段階的戦略を採用し、2025年度には酒類製造免許の取得、自社製造への移行を目指している。さらに長期的には、全国の酒粕を活用した商品開発や世界展開を視野に入れ、地域を支える基幹産業に成長することを目標としている。
事業展開においては、製品戦略として「こころと身体にやさしい」ブランド価値を前面に押し出し、成分分析や大学との連携によるエビデンスを確保する。パッケージデザインには地域在住のアーティストを起用し、参加型・育成型の仕掛けを導入することで、地域住民の関わりを強めている。販売戦略では、免許取得前はクラウドファンディングやEC、ふるさと納税を活用し、免許取得後は自社販売と卸売の両輪で収益基盤を拡大していく計画である。
本事業の強みは、琵琶湖周辺の里山という希少な地域資源に立脚している点、環境立県・健康長寿県としての滋賀県のブランド力、そして大学や地域ネットワークとの連携基盤にある。さらに、酒造りのノウハウを持つ人材や地域農業者、デザイナーなど多様な協力者を巻き込み、地域の持続可能性を高める「共創」の枠組みを築いている。地域循環共生圏の理念を体現するこの仕組みは、持続可能な農業や食文化、さらには観光や教育分野とも連携可能であり、多面的な波及効果をもたらす。
結論として、「酒造り事業の創発による地域活性化」は、単なる商品開発にとどまらず、地域文化の継承、循環型社会の実現、AI・ICT時代における雇用創出を同時に果たす挑戦である。「リキュール:里和浸酒」は、地域循環共生圏の中核的な取り組みとして、地球にも人にも地域にもやさしい酒となり、地域の未来を紡ぐ新たなシンボルになることが期待される。
