森林が幸福をもたらす現象のモデルを構築、みんなが幸福になる社会の実現のために森林の価値を再評価

取り組みテーマ分野:<スマート農業・観光>

研究者:髙橋 卓也(環境科学部・環境政策・計画学科)

 今、世界的にウェルビーイングに関心が寄せられています。経済的な豊かさが必ずしも幸福につながるものではないことはご承知の通りです。森林などの自然豊かな環境の中で穏やかな生活を送ることが幸福の第一歩と思うことはありませんか。森林と幸福にはポジティブな関係があると想像することは難くありません。一方で今、国内の森林産業は不振を極めています。国内での木材生産は低下し、森林所有者の森林離れが加速、森林の経済的価値は下がるばかりです。しかし森林には土砂災害を防止し、人々に必要な水を供給し、さらに多様な生物種を育成保全する役割があり、我々に安全安心を与えてくれます。その役割を承知しているからこそ、人々は森林の傍で森林を眺めながら自然の懐で暮らすことが幸福だと考えるのではないでしょうか。
 本研究は、幸福度の観点から、木材の供給だけではない森林の価値を再評価し、森林の位置づけを見直そうという試みです。野洲川流域におけるアンケート調査で、森林のみならず川や琵琶湖がもたらす幸福度を分析しています。その結果からは意外に思えるようなことも分かってきました。森林所有者はかえって不幸せ、自然はあり過ぎるとありがたくない、水害経験があった方が河川幸福度は高い。えっそうなの?と思うような結果ですが、本研究ではなるほどそうかもしれないと思える考察をしています。その他に森林の境界や所有者の不明問題、森林の位置と花粉症分布の関係など、森林にまつわる種々の課題も研究しています。スマホアプリなどのICT技術の導入も視野に入れ、取得データの種類や数を増やし、精度向上や応用分野の拡大を図っていきます。
 2024年度からは森林環境税の徴収が始まります。森林や自然をきちんと維持管理することが地球温暖化対策に必要なことは誰でもが知っています。森林を身近に感じて、森林が抱える問題に思いをはせ、森林との関わりを深めていくことが、今求められています。政策に関わる国や自治体だけでなく、産業界においても新たな事業が創出されるものと森林には大きな期待が寄せられています。森林が本当にウェルビーイング(健康・幸福)につながるのか、そうでないなら隠された課題は何なのか。今後も研究を深めてまいります。

 


2023年03月31日