嚥下機能評価システムの構築に向けての取り組み

研究者:宮城茂幸(工学部電子システム工学科)、 小澤恵子(人間文化学部生活栄養学科)、 森谷季吉(草津総合病院)、 坂本眞一(工学部電子システム工学科) 、酒井道(工学部電子システム工学科) 他 学生4名

 

 我が国は超高齢社会に突入し、現在では国民の4人に1人以上が高齢者であるといわれています。このような高齢者の増加に伴って、嚥下障害も問題化しています。嚥下障害による「誤嚥」は肺炎を招く要因の一つです。厚生労働省の平成27年人口動態統計月報年計(概数)によると、肺炎は、悪性新生物、心疾患に次いで全死因の第3位です。肺炎の中でも高齢者に多いのは「誤嚥性肺炎」であり、高齢者肺炎のおよそ 70%以上が誤嚥性肺炎であるとも言われています。
 医療機関では、嚥下機能を評価するために嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)が用いられますが、特別な機器や操作技術が必要ですので、在宅での評価は不可能です。今後グループホームや在宅による介護が増加するにしたがい、別な技術がいらず、一般の看護従事者や介護従事者であっても実施できる簡便で統一された嚥下機能評価システムが必要とされています。そこで、従来の頸部聴診法を援用した嚥下音の解析と頸部深度画像を組み合わせた嚥下機能評価システムの構築を目指した基礎研究を行っています。
 現在、草津総合病院頭頸部外科・甲状腺外科センター長森谷季吉医師と同院NST嚥下チーム協力のもと、嚥下音の取得や嚥下時の頸部の動きを捉えるための深度画像撮影を行っています。これらのデータをもとにして、健常者と嚥下障がい者との嚥下音の特徴差を調べたり、深度画像から頸部甲状軟骨の動きを推定する方法を検討しています。
 嚥下音の解析は、時系列信号解析と呼ばれる解析手法の応用とみなすことができます。時系列信号解析では、音(音声)だけでなく、加速度センサや角速度センサといった種々のセンサ信号も取り扱い、それらの信号から有用な情報の抽出を行います。これにより行動認識といった分野への応用も可能です。また、深度画像については、物体の追跡、形状推定といった問題へ適用できます。このようにここでの研究結果は、嚥下機能評価にとどまらず様々な分野へ応用可能です。

図1.健常者の嚥下音の例
食塊流入からVE画像がホワイトアウトするまでを赤色で、 ホワイトアウトから呼気再開までを青色でプロットしています。 食塊の流入にともない嚥下がすぐさま開始され、 バースト状に嚥下音が発生することがわかります

図2.深度画像から導出した勾配画像
形状変化にともなう傾きがグレースケールで表現されています。甲状軟骨にともなう隆起部分が顕著に現れています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2017年04月20日